文献レビュー「Analysing live coding with ethnographic approach - A new perspective」
質的な調査方法でライブコーディングの実践を研究する文献として、『Mori, G. (2015). Analysing live coding with ethnographic approach - A new perspective. https://doi.org/10.5281/ZENODO.19343』を参照する。
この記事は、エスノグラフィーという質的調査によってライブコーディングの実践者の行為や言説をどのように扱っているかを理解し、自らの研究にその方法を応用するための文献レビューである。
本文献は、まだエスノグラフィーの調査途中であるように思われ、文献内では調査に基づいた議論よりは、文献レビューをもとにライブコーディングのコミュニティーに「ハッカー倫理」と近しいものが存在するという議論を展開している。より具体的なサーベイ結果を読み解くには、おそらくMoriの博士論文である『"Live Coding? What does it Mean?" An Ethnographical Survey on an Innovative Improvisational Approach』を参照する必要がありそうだ。残念なことに日本で先の文献を読むことができる可能性が希薄でありそうだ。しかし、本文献で彼が用いている質的調査の手法については参考になりそうである。
彼は大きく二つの手法を挙げている。一つは、参与観察中心の従来のエスノグラフィーで、もう一つに「ネットノグラフィー(netnography)」という手法だ。ここでは、後者の「ネットノグラフィー」について少し解説したい。Mori(2015)は「ネットノグラフィー」はマーケティングの分析手法としてロバート・コジネッツにより発案されたものであり、「オンラインユーザーの自発的なチャットから重要な行動情報を収集する」できる方法だという。そして、対象となる集団は「ウェブトライブ」と呼ばれ、研究者はウェブトライブ内のユーザーのやり取り元に調査を進める。
ネットノグラフィーの特徴として、深く対象集団に干渉しないという点が挙げられる。Mori(2015)によれば、「ネットグラファーは非侵入的であ自然な調査方法を採用し、研究者が通常のフィールド・ダイナミクスに干渉するのを制限することで、人々が自由に意見を交換し、製品を評価できるようにしている」。したがって、その方法は直接当事者に関与していくというよりは、当事者の様子を傍観し観察する三人称視点のカメラのようなものである。そのカメラにより、研究者のレンズを通して対象の価値観が記述されるというわけである。まさにネットノグラフィーには文化的洞察を行うという目的があり、これにより、ウェブトライブの「部族倫理(tribal ethics)」と「部族文化(tribal culture)」が研究される、言説を解釈し価値観を記述する行為なのである。