リサーチのはじめかた(備忘録,wip)
第一章 問いとは
テーマという漠然として広いものを、具体的で興味をそそる問いにどのようにして落とし込むか
一般的なテーマ→具体的な一連の問い
テーマは問いではない
テーマは好奇心の対象を指すが、ある研究の動機や、どのような方向性の研究なのかはわからない。テーマはある範囲を指すが、答えがなく、何を明らかにしたいか、どのように明らかにしたいかという研究の中核になる部分に応えられない。
そういった際に、「テーマを絞りこむ」という方法をとりがちだが、それは誤りである。なぜなら、テーマを狭めても依然として「何を」「どのように」研究するかには答えられないからだ。
問いとなるものは、研究が誰にとって、なぜ重要なのか?なぜ特定のテーマなのか?(トムの中国の近代化の歴史と風水ならば、なぜ風水というテーマなのか)
テーマから問いへ
「研究プロジェクトの最初期の段階で必要なのは、極めて個人的な問いに答えること」
いろいろと面白い研究テーマがあるのに、ある特定のテーマを選ぶのには理由がある。あるテーマになぜ惹かれるのか、テーマと私の間にどのような関係があるのかに答えるのが第一段階。
テーマから問いを生み出す際に有効なのが、「自分が選んだテーマについての興味を説明すること」
テーマを問いに落とし込む第一段階で重要なのが、以下の四点
- 自分を飾らないこと
- 自分にわかる限り最大限に正直であること
- 首尾一貫していたり、高尚である必要はない
- 問いに対して批判せずに肯定的に受け止める
- つまり、どれだけ稚拙な問いであったり、支離滅裂、偏った問いであっても、問いが生まれることにブレーキをかけてはいけない
- これらの問いは後の段階で生かされていく
- アイデアを書き留める
- アイデアは生まれてもそれを記録しないと忘れていってしまう。思考のあととしてそれらを記録していく。
- 問いは内側から生み出す
第二章 きみの問題は
問いがたくさん出てきたところで、次の段階は以下である
- 問いを鍛えること
- 一次資料を探してしようする作業に入る
多くの問いはすべてが研究になるものではない。問いには研究のための適切な問いがある。「適切な問いに辿り着くには、研究の積み重ねが必要」。
「本章の目標はきみの多くの問いの根底にある問題を見極め、正確に言語化すること」
問いに飛びついてはいけない(問題を捉え損なうことになる)
問いと問題の違い:
- 問いは一時的だが、問題はずっと自分のなかで引っかかる。
- 問題とは(…)きみの心中に問いを生み出すものであり、どんなにバラバラで無関係に見えたとしても、君自身は何らかの形で相互に関連しているとわかっている
最終的には、「その問題に名前を与え、君の個人的な能力と制約に基づいて、君に研究できるその問題の事例を特定することであり、その事例をどのように研究すれば、広範な解決策にたどりつけるか考えること」
分解すると
- 問題に名前を与える
- 問題の事例を特定する
- 事例をどう研究すれば解決策にたどりつくか考え実践する
が問題を設定する上での行程だ
ここでは、
- すでに作成した問いを改善する方法
- 問いを立てる動機となる問題を特定するために文献を利用する方法
- その問題を用いて新たなより良い問いを生み出す方法
を扱う
問いのストレステスト
問いを立てる上での気をつける点:
- 主張的な問いにしてしまっている
- 最初から特定の立場を他者に受容させるような問い
- それに関係する事実が証拠から見て解釈か妥当か検討できていない段階で、主張を要求できない
- 誘導的な問い
- 「〜xはyにどのような影響を与えたか」のような問い
- xがyに与えたという状況が正しいという前提で進めてしまっている
- そんな影響があったが立証されていない
- xがyに影響しなかったという可能性を排除してしまっている
- 〜の「影響」が存在していないと成立しないような問いの立て方を避ける必要がある
一次資料を使って問いを鍛える
第一章では資料を読み込まず興味を理解するためにだけに用いていた。が、ここでその一次資料を突っ込んで読み込む段階にはいる。ここでの目的は問いを発展させ、磨きをかけ膨らませること。
「一次資料じたいが別の一次資料の存在を教えてくれるから、それらに触れることによって、主題についてより熟した問いを立てることができるようになる。」
「要するに、一次資料探しのこの初期段階では、主たる目的に実は問いの答えを探すことはできないのだ。すでに見つけた一次資料を用いて、存在することすら知らなかった新しいキーワードを発見し、そのキーワードを検索にフィードバックして、より多くのより良いキーワードを見つけ、そして何より重要なのは、より多くのより良い問いを見つけることなのだ。」
まとめると、一次資料を検索し、それを読んでいく中で自分が明らかにしようとしている問いが、どのような言葉で論じられているのか、そのキーワードを洗い出し、問いをより明確にしていく作業。いわゆる、問いの上で用いられる言葉の深さ優先探索(depth first search)をするようなもの。
そして、問いを鍛えるこの利点は、「問いの一部については答えがわかってくる」そして、実際に超える価値のない問いかどうかがわかってくる」。主題についての知識が深まっていき、それにつれて直感も鋭くなってくるのだ。
キーワードと検索の記録を残す
記録管理をすることで、何をどうやって調べたかを忘れた時にリカバリーできるようにする。これによって、キーワードを再度調べる無駄な時間をなくすというわけだ。
方法は簡単、表を作る
- 各行の左端に、使おうと思っているキーワード
- 列のヘッダーに調べる予定のデータベース、図書館のカタログを入力
- 検索を実行したらセルに記録を残す(調べた日付とヒット件数などの備考をメモ)。
例:
google scholar | zenodo (iclc) | research gate | |
---|---|---|---|
music live coding ethics | 20240802 | 20240731 | |
software authenticity | 20240802 |
思い込みを分析して、問いを正しい方向へと導く
わたしたちは、自分の中にあるバイアスをもとに、問いを推論する。したがって、問いが生まれるのは、思い込みがあり、その予想によってだ。
しかし、その思い込みによって予想が外れることは大いにあることだ。思い込みを白日に晒し、対処できるようにし、「目には見えないけれども、君の考え方に影響を及ぼしている思考の一部を表面に浮かび上がらせる」のだ。これによって問いの前提が明らかになって、問いを修正する材料にもなる。
方法:
- 問いの最新版を見直して、それぞれの問いに「そもそもこの問いを発するためには、あらかじめ何が真実でなくてはならないか」と自問する。
- そこで気づいた些細な疑問や事柄をリストアップし、それに気づく理由となった思い込みを書き出す。
- 思い込みを三つにカテゴライズする
- いまのところは、そのまま持っていて良いと思える思い込み
- すぐに捨てたい思い込み
- どちらとも言えない思い込み
- 上のように分類した理由を二行で書く
カテゴリーaに分類された問いは、問題とない前提をもとに成立しているからそのままにしても問題ない。しかし、カテゴリーbに分類された問いは問いを発展させる余地があるということだ。前提を堅固なものにする(根拠のあるものに、偏見のないものに、具体的なものに)。
問いと問いを結びつける問題を特定する
ここでの目標は複数の問いの根底にある問題を明らかにすることだ。「これまでに生み出し、収集してきたさまざまな問いや事実の断片の間にどんな関係が見出せるだろうか?どんな動機があって、これらの特定の事実を君は検索しているのか?このテーマについてはどんな問いでも建てられたはずだがなぜこれらの問いなのか?」
問いの全てを結びつけて、首尾一貫した全体とする、隠れたパターンを見つける。これによって問いの関係性をもとに問題が浮かび上がってくる。
第三章 成功するプロジェクトを設計する
ここでの目標
- 問いに答えて「問題」を解決するためにどんな一次資料が必要か考える
- プロジェクトを組み立てるのにどんな資源(時間、金、能力)が必要かを考える
資料の集めかた編
一次資料とは?
資料は一次資料と二次資料に大別できる。
一般的には以下のように定義されている。
- 一次資料
- 「原資料」「生の資料」
- 現実に関する主張や仮説、理論を展開、検証する上での証拠やデータ
- ある主題について述べる上で原点となる資料
- 文献とは限らない(言説や映像などの記録などとさまざま)
- 二次資料
- 一次資料をもとづく書籍、論文、記事
- ある結論を発展させたり、異なる立場(反論)から論じられている
しかし、ここで重要なのは、どんな資料でも一次資料、もしくは二次資料となるということ。
一次資料になるかはどうかは特定の問いに対して相対的に決まる
e.g. ある歴史に関する教科書は二次資料だが、教育上歴史がどのように扱われているかを問うならば、教科書が一次資料になる
シリアルの箱の例:
シリアルの箱でも一次資料になりうる。「食物そのものとは何の関係もない無数の問い」が生じる原点となりうるため。
しかし、ある資料が一次資料であることは間違いないとしても、その研究の問いによってどのような意味で一次資料として用いられるかは変わってくる。どんな研究だと、このシリアルの箱という資料から参考文献とか資料一覧に出てくるかブレストした場合、全く異なる分野の問いと関連資料が連想される。
一次資料から問いへ(自分の関心ごとがある程度決まってたらそこまで重要でない?)
目標:
一次資料をもとに複数のジャンルの問いを立てる習慣をつけるようにする。
見過ごされやすい問題が見つけられるようになり、この手法を身につければ、自分がどの問題に最も関心があるかがわかり、独創的な研究をする能力が高まる。
方法:
- 資料を一つに絞って入手する。
- シリアルの箱の例のように様々な要素を抽出する。最低でも10個。
- 以下のような表を埋めていく
- 資料の着目した点
- そこから思いつく問い
- 次に必要になりそうな資料はなにか
- 自分の問題に管毛がありそうなより広い主題や問いのジャンル
このブレストの表をもとに、「自分が最も関心がある」事柄や、「問いや関心ごとに関して、この資料がどういう意味で「一次資料」なのか」を分析する。
つまり、この方法は自分の興味や関心を言語化することで顕在させるのだ。
筆者は、この方法をする際に、隣接する関心ごとに関する問いのジャンルではなく、異なるジャンルの問いをできるだけ多くあげることと言っていたが、何を知りたいかがある程度決まってる段階で多くのジャンルの問いをあげることの意味がよくわからない。
資料を思い描く(必要な資料の同定)
目標:一次資料があると思い当たる場所を想像する。それによって最初のうちは思いもしなかった場所を特定すること。
ある関心ごとや問いについて重要な資料は必ずしも文献のデータベースや図書館にあるとは限らない。「たとえば、20世紀前半のニューヨークにおける労働者階級の女性の人生について調べているとしよう。(…)そういう女性の一生はどこに記録されているだろうか。」おそらくこのような資料は一般的なデータベースに書籍や文献としてあるのではなく、電話帳や出入国管理の書類といった別の類の「記録」として存在している。このことに気づき、文献ではない資料へと目を向けるには、検索をかけるのではなく、ある問いや関心ごとを調べる上でどういった資料が必要かを想像する必要がある。
つまり、これは資料の出発点を探す作業。「キーワード検索は出発点とは限らないし、必要なものが全てそれで得られるわけでもない。資料がどこにありそうか想像してから、初めて検索作業に戻るべきだ。そうすれば、より多くの、より多様な場所を探すことができるようになっているはずだ。」
議論の進め方編
点と点を結ぶ:資料から議論へ
集めた資料からどのように論文用の議論を進めていけばいいのか?
「点繋ぎゲーム」のアナロジー:
資料から議論を展開するのは、点繋ぎゲームのようなもので、点(資料)が集まっていないと適切な絵(議論)ができない。
点が一つならば、返ってそこから無限にその点を通る線を引きあらゆる絵がかけるように、どんな議論でも展開できてしまう。
また、その描く線を自ら見出す必要がある(意味があるパズルを作る)のがある資料をもとに議論を進めるということである。
議論の記述のされかた(点と点の結び方)
資料をもとに何を記述するかによって、当然ながらどうそれが解釈されるかが変わってくる。資料に書いてある事実をそのまま簡潔に記述する(点と点を直線で結ぶ)こともできれば、事実ではあるが、資料に書いてあることに脚色を加えて記述する(点と点を曲線で結ぶ)こともできる。
議論を展開する上で気をつけるべきこと:
- 資料をできる限り正直に代弁しなければならない
- 記述によって意味が変わることを十分に意識した上で、資料を扱う必要がある。
- 事実に無理やり物語を語らせない
- 点と点の結び方によっては、事実に基づいていたとしても、書き手が言いたいと思うことを無理やり言わせることもできてしまう。
- 点と点を結ぶのは常に能動的な選択を伴う行為だということ
- 『資料の扱いが「直線的」で「客観的」であれば、研究者としての責任は果たされると安易に考えてはいけない。点と点を「直線的」に結んだからと言って、不純物が混じり込まないわけでもなく、またその方法が常に望ましいわけでもない。機械的に事実を列挙するだけでは、本質的な文脈を無視するとか、根本的な問いを封じ込めるとか、そういう望ましくない影響が生じる恐れがある。』
またこれは、資料を読む際にも同様に気をつける必要がある。
資料が間違えていたり、不完全な場合は往々にしてあるということだ。そのために、批判的に資料を扱う必要があるのだ。
研究計画編
研究のプロジェクトには得手不得手がある。たとえば、以下の物理的要因によってどういったプロジェクトが適しているかは異なってくる。
- 時間
- 資金
- 執筆速度
- アクセス
- 必要な資料にいかにアクセスできるか
- 能力
- 何が得意で何が不得意か
- 性格
- 内向的か外向的かなど
その上で意思決定マトリックスを作って計画やスケジュールを調整しようというわけだ。
方法:
- 上のリスト物理的要因をもとにプロジェクトに影響しそうな要因を全て書き出す。最低でも10個
- それぞれをプラス要因とマイナス要因に分類する
- それがプロジェクトにどの程度影響すると思われるかによって、各要因を高強度、中強度、低強度に分類する
これをもとに「今思い描いているプロジェクトと人間としての君自身との相性を評価する」わけだ。目標はプロジェクトに影響を及ぼす様々な影響について、正直でありのままの概要を作成することにある。これに基づいて、さまざまな種類の研究プロジェクトについて成功の可能性を考え、それに応じて問いを調整する。
ふたつのBプラン
意図した研究がうまくいかなかった。もしくは、物理的要因の制約によって現実的でない場合のために別のプランを用意する。
ある事例で進めようとするが、それが実現不可能な場合、どうすればいいのか? → 同じ問題を根底に持つ別の事例を探せばいい
その場合は、同じ問題を中核に存在しているが、異なる事例(アプローチ)でプロジェクトに取り掛かれることが多くの場合ある。(抗議活動における通信技術について調べていた学生がその例)
そのためにも、問題の中核を自分自身が理解しておかなければならない(そのために問いを多くあげてその中での関連性を把握し問題を特定する)。
研究計画書を作る
ここでは、プロジェクトを想像上の読者に向けて「現時点で可能な限り首尾一貫した説得力のある形で説明」する研究計画書を書く。
- 研究プロジェクトのタイトル
- 研究で扱う問い
- これまでなぜその問いを扱う人がいなかったのはなぜか?あるいは適切に答えられなかったのはなぜか?
そして重要なのが、一週間以内に完成させるという期限を設けること
なぜ、準備不足の段階でこのようなことをするのか?
- 今現時点での自分の考えや課題を文章という形で表現しておくため
- あとあと、自分の研究の動機や方向性を確認するための貴重な記録となる
- ようするに、自分の考えのバックアップやリカバリーポイントのようなものになる
- 誰かを説得させるために書くことによって、想像力が働く。その力を利用する。
- この状況がてこになり、新しいアイデアが湧いてくる。自分の中では地が固まっていないと思っていても案外しっかりと書けてしまうもの。
- 来たる期限のために書く練習
- 「どれだけ準備をしようとも、100パーセント準備完了で始められるなんてことはない」し、「じゅうぶんに知ってから始める」なんてことは不可能なのだ。だからこそ、今とりあえずの段階で未熟でも完成したものを作る。
書く方法:
- フォーマット
- ダブルスペースで4〜6ページ
- 余白は1インチ
- フォントは明朝体、12ポイント
- 提出期限
- 一週間後
- 何を書くのか
- 文脈的枠組み
- 時間的、場所的な状況の説明
- 前提となる知識と参照枠の説明
- 知らない人に向けて、研究案に関わる事実を理解してもらい、その重要性を評価してもらえるようにする
- 目標と目的
- アーカイブ化された一次資料を用いて、どんな問いに答えようとしているのかを述べる。
- この研究でどんな重要な知見が得られるのかを述べる
- それを読者に理解してもらうための基礎知識
- 意義
- 現在の知見に基づいて、提案する問いの意義を説明する
- そのテーマについてすでにわかっていることから、このプロジェクトによって有意義に理解が深まるとなぜ言えるのか
- 重要なのは、なぜ扱おうとしている問題や問いに答える意義があるかを、資料などに基づいて答えること
- これからの予測に基づいて答えるのではない
- 現在の知見に基づいて、提案する問いの意義を説明する
- プロジェクト計画
- どの一資料を用いるのか
- どこにそれがあるのか
- プロジェクトを達成する上での方法論を詳細に述べる
- どの手法を用いるか、そのためにはどのような資源が必要かなど
- スケジュールやマイルストーン
- どの一資料を用いるのか
- 文脈的枠組み